このニュースは、2026年度(来年度)の診療報酬改定をめぐる政府内の議論を報じたものです。背景として、高市政権が、社会保障改革の一環として「現役世代の保険料引き下げ」を政策の柱に据えている点が挙げられます。日本の医療制度では、診療報酬(医療機関への公定価格)が医療費全体の約半分を占め、これを基に国民健康保険や健康保険組合の保険料率が決まります。高齢化による医療費増大で現役世代の負担が重くなっている中、政権は保険料抑制を急務としており、財務省がそのための具体策として診療報酬の「適正化」(実質的な低減)を主張しています。
財務省の指摘の核心は、開業医中心の診療所(無床医療機関)の収益性です。財務省の調査(2022年度データ)によると、診療所の平均経常利益率は8.8%と、中小企業の3.4%を上回り、大規模病院の5%よりも高い水準です。また、内部留保(利益剰余金)も平均1億2400万円と増加傾向にあり、コロナ禍での特需(補助金増加)も背景に「もうけすぎ」との批判が強まっています。これに対し、財務省は診療所の報酬単価を5.5%引き下げれば、本体部分(人件費・技術料)の全体改定率を1%マイナスに抑えられ、現役世代1人あたり年間5000円程度の保険料軽減が可能だと試算しています。この主張は、財政制度等審議会(財政審)の建議(2025年5月)で「社会保障費の伸びを高齢化範囲内に抑える」方針として継続されており、インフレ下でも診療報酬の抑制を優先する姿勢を示しています。
一方、日本医師会(日医)は、自民党の有力支持団体として、診療所の経営実態を「補助金頼みのギリギリ黒字」と反論。賃金上昇(3.3%推奨)や物価高騰への対応として、大幅プラス改定を求めています。日医会長の松本吉郎氏は、財務省の建議を「心が折れる」内容と批判し、基本診療料の引き上げを主張しています。この対立は、過去の改定でも繰り返されており、例えば2024年度改定では本体0.88%プラスで決着しましたが、インフレ率(2.5%)を考慮すると実質マイナス1.62%と財務省優位でした。
この議論は、単なる予算配分の問題ではなく、医療制度の構造改革と政治力学を反映しています。
2025年秋~年末の予算編成で、診療報酬改定率の基本方針が決定します。財務省優位の流れが続き、本体部分は0.5%以内のプラス(実質マイナス)で着地する可能性が高いです。診療所の報酬適正化分として0.25-0.5%の低減が織り込み済みで、現役世代の保険料引き下げ幅は1人あたり3000-5000円程度に抑えられるでしょう。高市政権の改革意欲から、維新連立の影響でOTC薬除外や中医協(中央社会保険医療協議会)の見直しが進み、日医のロビイングが強まる中、年末大臣折衝で「賃上げ配慮」の名目で微プラスが決着するシナリオが濃厚です。
ただし、2026年夏の参院選を控え、自民党内調整で日医譲歩が限定的になるリスクあり。長期的に、AI診断導入や予防医療シフトで報酬体系が変わる可能性が高く、高市政権の成功はトランプ政権との通商交渉(フェンタニル対策含む)と連動するかも知れません。全体として、対立深化で医療界の結束が試される年となりそうです。