ニュース概要
日中国際フェリー株式会社(本社:大阪市中央区)が運航する国際フェリールート(神戸・大阪南港 ↔ 上海)の主力船「鑑真号」において、上海発の便から旅客輸送サービスを無期限で中断することを2025年12月8日に発表しました。具体的には、12月6日(土)上海発の便から適用され、貨物輸送は継続されます。すでに予約済みの乗船券については、キャンセル手数料を免除して全額返金対応が取られます。この決定は、中国側からの「日中間の渡航安全が確保できない」との申し入れに基づくもので、日中両政府の外交摩擦の影響が指摘されています。 これは、2025年6月28日に約5年半ぶりに再開した旅客サービスが、わずか半年で再び停止に追い込まれた形です。
背景と解説分析
歴史的経緯
- 航路の概要: このルートは、日中国際フェリーと中国のCOSCO Shippingの合弁会社「中日国際輪渡有限公司」が運航する、日中間唯一の定期国際フェリー航路です。全長約2泊3日(片道約50時間)のロングクルーズで、瀬戸内海の景色や黄浦江の夜景を楽しめる点が魅力。旅客定員は約1,000名規模で、コンテナ貨物(TEU換算250本以上)と並行運航されていました。
- 過去の中断要因:
- 2020年1月、新型コロナウイルスの感染拡大で旅客輸送を停止。以降、貨物のみ継続。
- 2024年6月、新造船「鑑真号」(中国・金陵船舶威海工場建造、総トン数約1万5,000トン)が就航し、既存船「新鑑真」を貨物専用にシフトする2隻体制へ移行。
- 2025年6月、上海旅客ターミナルの改装工事完了を受け、6月28日上海発便から旅客再開。運賃は片道大人35,000円〜(デラックスルーム60,000円〜)、学生割引ありと、コロナ前水準で復活し、観光・ビジネス需要の回復が見込まれました。
- 今回のトリガー: 中国政府が同国民に対し、日本への渡航自粛を呼びかけたことが背景にあります。 これは、2025年秋以降の両国関係悪化(例: 尖閣諸島周辺での領海侵犯増加、日中首脳会談の不調、経済制裁の応酬)と連動。中国側は「安全確保不能」を理由に挙げましたが、実際には外交的圧力や反日感情の高まり(SNSでの反日デモ報告増加)が影響したと分析されます。日中国際フェリーの村上光一社長は「いつまで続くかは分からず、再開時期は未定」とコメントし、企業側の困惑を表しています。
影響分析
- 経済・産業面:
- 旅客輸送は売上の約20-30%を占め、再開直後には予約が好調(特に中国人観光客のインバウンド需要)でした。中止により、年間売上高の数億円規模の損失が発生の見込み。神戸・大阪の港湾経済(ターミナル手数料、周辺飲食・土産物店)にも波及し、兵庫県知事の斎藤元彦氏は「現時点で影響は限定的」と述べていますが、長期化すれば観光業に打撃。
- 貨物輸送は継続するため、コンテナ物流(中国輸出入の約10%を担うルート)は安定。ただし、旅客船の維持費(燃料・乗組員)が固定費として重荷に。
- 外交・社会面:
- 日中関係の「冷え込み」の象徴。X(旧Twitter)では「中国の自業自得」「鑑真の呪い(歴史的失敗譚とのジョーク)」などの反応が広がり、反中感情を助長。 一方、中国国内では「日本側の責任」との声も。
- 代替手段として航空便(LCC増加)や韓国経由フェリーが浮上しますが、フェリーの「ゆったり移動」需要(コロナ禍で再評価)は失われます。環境面では、船の低炭素輸送優位性が損なわれる可能性。
- リスク要因: 中国側の「安全確保不能」発言は、偶発的な海上インシデント(例: 軍艦接近)を示唆。2025年の東シナ海緊張(米軍演習対応)を背景に、旅客安全保険の適用が難航する恐れあり。
今後の展開予測
- 短期(1-3ヶ月): 中断は継続し、予約キャンセルが急増。日中国際フェリーは貨物特化で凌ぎ、公式サイトで代替航空便の情報提供を強化する可能性。両国政府の水面下協議(外務省ルート)で部分再開の目処が立つか注目ですが、12月中の進展は低い。
- 中期(3-6ヶ月): 日中首脳会談の成否次第。2026年1月の運賃改定予定を先送りし、損失補填のため補助金申請へ。上海ターミナル側の工事遅延が再燃すれば、完全停止のリスク。
- 長期(6ヶ月以上): 関係改善で2026年上半期再開が現実的(公式スケジュール掲載済み)。 ただし、地政学リスク高で、ルートの縮小や他社参入(例: 韓国フェリー連携)が議論に。ポジティブシナリオでは、インバウンド回復で「鑑真号」の新ルート(台湾経由)検討も。
全体として、企業・地域の打撃は避けられませんが、日中経済の相互依存から完全断絶は考えにくく、外交交渉の「バロメーター」として注視が必要です。最新情報は公式サイト(https://www.shinganjin.com/)を確認してください。