アジア人差別(特に東アジア人に対するもの)の歴史的背景は、主に19世紀以降の西洋諸国での移民・植民地主義、経済競争、戦争、そして人種ステレオタイプの蓄積に根ざしています。この差別は「Yellow Peril(黄禍論)」という概念を中心に形成され、アジア人を「脅威」「劣等」「異質」とみなす視点を広めました。以下で主な歴史的流れと背景を時系列で説明します。
19世紀:移民労働者への排斥とYellow Perilの起源
- 背景:1840年代以降、中国人労働者が米国・カナダ・オーストラリアなどに大量移住(金鉱労働や鉄道建設)。彼らは低賃金で働くため、白人労働者から「仕事奪い」と敵視された。
- Yellow Perilの登場:1890年代、ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世が「黄色人種の脅威」を警告したのが起源。日本が日清戦争(1894-95年)で勝利した後、アジアの台頭を恐れる欧米で普及。アジア人を「野蛮な群衆」「文明を脅かす存在」と描くプロパガンダが広がった。
- 具体的な差別法:
- 米国:1882年の中国人排斥法(Chinese Exclusion Act) – アジア人移民を事実上禁止(1943年まで)。背景に「アジア人は病気を持ち込む」「道徳的に劣等」という偏見。
- カナダ(1923年中国人移民排斥法)、オーストラリア(白豪主義、1901年)、ニュージーランドなどでも同様の政策。
- 暴力事件:1871年のロサンゼルス中国人虐殺(19人死亡)、1880-1900年代の反中国人暴動多数。
20世紀前半:戦争と強制収容
- 第二次世界大戦:1941年の真珠湾攻撃後、米国で日系アメリカ人強制収容(10万人以上が収容所送り)。「忠誠心が疑わしい」という人種偏見が原因。
- ステレオタイプの強化:メディアや風刺画でアジア人を「狡猾」「残忍」と描く(例: Fu Manchuのような悪役キャラクター)。
20世紀後半~現代:モデルマイノリティ神話と繰り返すヘイト
- モデルマイノリティ:1960年代以降、アジア系(特に東アジア系)を「勤勉で成功する少数民族」と称賛する神話が生まれる。一見肯定的だが、「黒人差別を正当化する道具」として批判され、アジア人を「感情のないロボット」「永遠の外国人」と固定化。
- ヘイトの波:
- 1980年代:日本経済台頭で「日本脅威論」、ビンセント・チン事件(中国人と誤認された男性が殺害)。
- 2003年SARS、2020年COVID-19:感染症を「アジア起源」と結びつけヘイト急増(トランプ政権の「中国ウイルス」呼びが助長)。
- 欧州での背景:米国ほど大規模移民史はないが、植民地主義(例: フランスのインドシナ、ドイツの労働者移民)や13世紀からのモンゴル侵攻記憶が「東方の脅威」を残す。COVIDでアジア人攻撃増加(フランス・ドイツなどで報告)。
「つり目」ジェスチャーの起源と象徴性
- 起源:19世紀後半の風刺画・プロパガンダで、アジア人のエピカンサス(目頭の皮膚ひだ)を誇張して「劣等」「異質」と嘲笑。1860年代から「slant-eyed」として記録。
- 現代の繰り返し:セレブ(マイリー・サイラス2009年)、スポーツ選手(スペイン代表2008年北京五輪広告)、広告(スウォッチ2025年)で炎上。意図が「冗談」でも、歴史的文脈で人種差別と認定される。
- なぜ根強いか:アジア人差別が黒人差別ほど深刻視されず、「軽いジョーク」と軽視される傾向。欧州では子供の遊びとして残るケースも。
この差別は経済危機・戦争・パンデミック時に顕在化しやすく、ステレオタイプ(「外国人」「脅威」)が基盤です。近年はアジア系コミュニティの抗議(Stop AAPI Hateなど)で可視化が進み、謝罪や法整備が進む一方、根絶には教育と意識改革が必要です。フィンランドの最近の騒動も、この長い歴史の延長線上にあります。
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