Categories: 政治について

スラップ訴訟の事例を詳しく

スラップ訴訟とは

スラップ訴訟(SLAPP: Strategic Lawsuit Against Public Participation)は、言論の自由や市民参加を抑制するための戦略的な訴訟を指します。主に権力者や企業が、批判者に対して名誉毀損や業務妨害などを理由に高額の損害賠償を請求し、相手を経済的・精神的に疲弊させることを目的とします。実際の勝訴を狙うより、訴訟そのもので相手を黙らせるのが特徴で、違法性が認められれば反訴の対象になる場合もあります。米国では反SLAPP法が整備されていますが、日本では法整備が進んでおらず、問題視されています。 28 29 33

以下では、日本と国際の有名事例を詳しく解説します。事例は判例や報道に基づき、背景、内容、結果を中心にまとめます。

日本の事例

日本では、政治家や企業による市民・ジャーナリストへの訴訟が多く、内部告発やSNS批判が標的になるケースが目立ちます。近年、SNSの普及で増加傾向にあります。

  1. DHCスラップ訴訟(澤藤統一郎弁護士 vs. DHC, 2010年代)
    化粧品会社DHCが、消費者団体や弁護士を相手に起こした一連の訴訟。背景は、DHCの商品広告が景品表示法違反として消費者庁から行政処分を受けたこと。これに対し、DHCは批判した弁護士の澤藤氏を名誉毀損で提訴し、1億円以上の損害賠償を請求。澤藤氏はDHCの商品問題をブログで指摘していたが、DHC側はこれを「虚偽の事実」と主張。裁判は長期化し、澤藤氏が全面勝訴。判決では、DHCの訴えが「言論封じの意図が強い」と認定され、SLAPPの典型例として記録されました。澤藤氏は反訴でDHCから賠償を得、書籍『DHCスラップ訴訟』で詳細を公開。この事例は、企業が内部告発者を威圧するパターンを示しています。 34 35 37
  2. 横浜地裁の元市長提訴事例(中田宏元横浜市長 vs. 市民, 2023年)
    元横浜市長の中田宏氏が、自身の過去のスキャンダルをSNSで批判した市民を名誉毀損で提訴。高額賠償を求めましたが、横浜地裁はこれを不法行為と認定し、中田氏の敗訴。背景は、中田氏の政治活動に対する市民の意見表明で、裁判所は「公人に対する正当な批判」と判断。訴訟費用も中田氏負担となり、SLAPPとして報道されました。この判例は、政治家が市民の声を封じる試みが失敗した例で、言論の自由の重要性を強調しています。 30 31
  3. 門口拓也(もんぐち社長) vs. 匿名Xユーザー(2023-2025年)
    訪問看護事業を営む株式会社Intermezzoの門口拓也氏が、自身の採用実績を疑問視したXユーザー(ちょめ子氏)を名誉毀損で提訴。門口氏は「SNSで4ヶ月で40名採用」と投稿しましたが、ユーザーが「被保険者数が2名しかいない」と指摘。これに対し、門口氏は490万円の損害賠償を請求。裁判では、門口氏の事実認識の誤りが明らかになり、2025年に門口氏の敗訴判決。ユーザーは完全勝訴し、門口氏は投稿削除とブロックで対応。この事例は、SNSでの事実確認不足がSLAPP化する現代的なケースで、裁判過程でユーザーが精神的負担を強いられた点が問題視されました。X上で広く議論され、SLAPPの抑止例として注目されています。 6 9 12 14 15
  4. 立花孝志(NHK党)関連の複数訴訟(2020年代)
    元NHK党代表の立花孝志氏が、批判者を相手に複数回の訴訟を起こした事例。例として、ちだい氏に対する3-4件(実際は19件との指摘あり)の名誉毀損訴訟。立花氏は政治活動の批判に対し、高額請求で応じましたが、多くの場合敗訴。SLAPPとして批判され、相手の経済的負担を狙った「恫喝目的」が指摘されています。このような繰り返し訴訟は、市民の政治参加を萎縮させる典型例です。 17 18
  5. その他の事例(環境・内部告発関連)
  • 環境問題: 企業が住民の反対運動を業務妨害で提訴(例: ごみ焼却場建設反対)。
  • 政治家による: 地方議員が報道機関を名誉毀損で訴え、言論封じ(最高裁昭和63年判決で棄却)。
    これらは、訴訟費用や時間で相手を疲弊させるパターンが共通です。 32 33 36

国際の事例

国際的にSLAPPは環境活動家やジャーナリストが標的になりやすく、反SLAPP法の整備が進んでいます。

  1. Oprah Winfreyの牛肉訴訟(米国, 1996年)
    米テキサス州の牛肉生産者が、OprahのTV番組で「狂牛病の危険性」を議論した内容を名誉毀損で提訴。1億ドル以上の賠償を求めましたが、Oprah側勝訴。背景は、番組での専門家発言が牛肉業界の利益を損なったと主張。この事例は、メディアの言論自由を守る先駆けとなり、テキサス州の反SLAPP法制定に影響を与えました。 20 19
  2. Greenpeace vs. Energy Transfer(米国, 2010年代-2025年)
    石油パイプライン建設反対デモで、Energy Transfer社がGreenpeaceを提訴。損害賠償として数億ドルを請求し、陰謀や名誉毀損を主張。2025年にGreenpeace敗訴の判決が出ましたが、SLAPPとして国際的に批判。背景は、ダコタ・アクセス・パイプラインの環境影響を指摘した活動で、企業がNGOを経済的に圧迫する例です。 25 27
  3. Daphne Caruana Galiziaの暗殺関連(マルタ, 2010年代)
    マルタのジャーナリストGalizia氏が、汚職暴露でPilatus銀行から複数提訴。暗殺された時点で数十件のSLAPPを抱えていました。EUでSLAPP規制が進むきっかけとなり、銀行の訴えは言論封じ目的と認定。この事例は、SLAPPが命の危険を伴う極端なケースを示しています。 22 23

今後の展開と注意点

日本ではSLAPP防止法の議論が進んでおり、2025年現在、内部告発者保護の強化が求められています。被害者は弁護士相談や反訴を検討し、事実確認を徹底することが重要。国際的に見て、企業(例: Patagoniaなど)がSLAPP反対を表明する動きもあり、市民の意識向上で抑止可能です。 21 26

katchan17