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Direct Air Capture(DAC)技術の詳細解説

Direct Air Capture(DAC)技術の詳細解説

Direct Air Capture(DAC)は、大気中から直接二酸化炭素(CO₂)を捕捉・除去する技術です。合成燃料(e-fuels)の生産で重要な役割を果たし、CO₂を原料として活用することでカーボンニュートラルを実現します。特にEUのe-fuels規制では、気候中立性を確保するためCO₂源として100% DAC由来が求められる場合が多く、点源捕捉(工場排ガスなど)は制限されます。

DACの主な技術方式

DACは主に2つの成熟したアプローチに分けられます:

  1. 液体DAC(Liquid DAC: L-DAC)
  • 代表企業: Carbon Engineering(カナダ、Occidental Petroleumの子会社1PointFiveが商用化)。
  • プロセス:
    • 大気を強アルカリ溶液(水酸化カリウム: KOH)と接触させ、CO₂を炭酸塩に変換。
    • ペレット化後、高温(900℃前後)で加熱(カルシナー)し、純粋CO₂を放出・回収。
    • 再生された溶液をリサイクル。
  • エネルギー: 高温熱が必要(天然ガスや再生エネ由来)。
  • 利点: 大規模連続運転に適し、1施設でメガトン級捕捉可能。
  • 2025年更新: 1PointFiveのStratos施設(テキサス)が2025年中盤稼働予定で、世界最大の年50万トン捕捉を目指す。
  1. 固体DAC(Solid DAC: S-DAC)
  • 代表企業: Climeworks(スイス)、Heirloom Carbon Technologies(米国)。
  • プロセス:
    • 固体吸着材(アミン系フィルターやゼオライトなど)に大気を通過させCO₂を吸着。
    • 中温(80-120℃)または真空で加熱し、CO₂を脱着・回収。
    • フィルターを再生して繰り返し使用。
  • エネルギー: 主に低中温熱と電力(地熱や太陽熱活用)。
  • 利点: モジュール式で柔軟、ダウンタイムが少ない。
  • 2025年更新: ClimeworksのMammoth施設(アイスランド)が稼働中、設計能力年3.6万トン(実際捕捉はフィルター問題で低調だが改善中)。Heirloomは炭酸カルシウムを使った低コストアプローチ。

その他新興技術: 電気化学DAC(ESA)、水分変動吸着(MSA)、膜分離など、開発段階。

エネルギー要件と効率

  • DACはエネルギー集約的: 1トンCO₂捕捉あたり1.5-2.5 MWhの電力 + 熱エネルギー。
  • 再生エネ(風力・太陽光・地熱)依存で、立地が鍵(アイスランドの地熱活用例)。
  • 全体効率: 捕捉率90%以上可能だが、ライフサイクルでネット除去を確保。

コストの現状と見通し(2025年時点)

  • 現在の捕捉コスト: 400-1,000 USD/トン(規模・技術による)。
  • Climeworks: 過去700-1,200 USD、改善中。
  • Carbon Engineering: 大規模化で97-168 USD(2025年推定)。
  • 将来: スケールアップと技術進化で100 USD/トン以下を目指す(2030-2050年)。GoogleのHolocene契約例で早期に100 USD達成の動き。
  • 主因: 設備費(エアコンタクターが半分以上)、エネルギー費。低炭素エネルギー活用で低下。

主な企業とプロジェクト(2025年更新)

  • Climeworks: Mammoth(年3.6万トン、アイスランド)。Orcaの10倍規模。
  • 1PointFive / Carbon Engineering / Occidental: Stratos(年50万トン、テキサス、2025稼働)。南テキサスハブで1Mt目指す。
  • Heirloom: 低コスト鉱物化アプローチ、Project Cypress(Climeworks共同、1Mt目標)。
  • その他: CarbonCapture Inc.(モジュール式)、Capture6など。グローバルDAC企業150社超。

e-fuelsとの関連とEU要件

EUの2035年以降内燃機関車容認では、e-fuelsのCO₂源として100% DAC由来が厳格に要求され、気候中立性(GHG削減100%)を確保。点源CO₂はネット増加を招くため制限。DACはe-fuelsのボトルネックだが、供給拡大で自動車用ニッチ(高級車)から航空・船舶優先へ。

課題と展望

  • 課題: 高コスト、大量エネルギー需要、供給不足(2035年で道路燃料の数%しか賄えず)。
  • 展望: 政策支援(米国DOEハブ、EU認証枠組み)でスケールアップ。2050年までにギガトン級除去が必要で、DACはCDR(Carbon Dioxide Removal)の鍵技術。

DACは合成燃料の実用化を支える基盤技術ですが、コスト低減とエネルギー供給が今後の鍵です。EUの転換政策では、DAC進展が内燃機関車の存続幅を決める要素となります。

katchan17