膵臓がんのステージ別最新治療戦略と成績(2025年11月時点)
膵臓がん(主に膵管腺がん、PDAC)は進行が速く、早期発見が難しく、全体の5年相対生存率は約9-12%と低い難治性がんとして知られています。診断時の約80%がステージIII以上で、手術可能例は20%未満です。治療は多職種連携(外科・腫瘍内科・放射線科)が基本で、ステージ分類は日本膵臓学会規約またはUICC TNM分類(ステージ0-IV)に基づきます。最新ガイドライン(NCCN 2025、ESMO 2023更新、ASCO 2025)では、化学療法の進化(FOLFIRINOX、NALIRIFOX)と分子標的療法(KRAS阻害薬開発中)が注目され、生存期間の延長が見込まれています。以下にステージ別をまとめます。生存率は国立がん研究センターの院内がん登録データ(2015-2020年集計、2025年更新推定値)や国際試験に基づき、個人差が大きい点に留意してください。
ステージ分類の概要(日本膵臓学会規約/UICC準拠)
| ステージ | 主な特徴(TNM) | 割合(診断時) |
|---|---|---|
| 0期 | Tis(上皮内がん)、N0、M0(微小浸潤なし) | 稀(<1%) |
| I期 | T1-2、N0、M0(腫瘍小、局所限定) | 約10% |
| II期 | T3、N0-1、M0(腫瘍大、リンパ節転移±) | 約10% |
| III期 | T4、N±、M0(主要血管浸潤、局所進行) | 約30% |
| IV期 | M1(遠隔転移:肝・肺・腹膜等) | 約50% |
ステージ別治療戦略と成績
治療の柱は手術(根治可能時)、化学療法(FOLFIRINOX: 5-FU+イリノテカン+ロイコボリン+オキサリプラチン、またはジェムシタビン+ナブパクリタキセル)、放射線療法(化学放射線療法: CRT)。新興療法として、KRAS変異(90%以上の症例)対象の阻害薬(開発中、2025年臨床試験中)や免疫療法(mRNAワクチン、臨床試験でPFS延長示唆)が登場。予後はR0切除率(腫瘍陰性マージン)とPS(全身状態)で左右されます。
| ステージ | 治療戦略(最新ガイドライン準拠) | 5年生存率 | 中央生存期間(MST) | 備考・最新進展 |
|---|---|---|---|---|
| 0期 | – 外科手術(膵頭十二指腸切除術: Whipple法、または遠位膵切除術)。 – 術後補助化学療法(ジェムシタビン単独 or mFOLFIRINOX)。 – 緩和ケア併用。 | 80-90% | 5年以上 | 稀少。術後監視で再発率低。2025年NCCN: 最小侵襲手術(ロボット支援)で合併症減少。 |
| I期 | – 根治的手術優先(R0切除率80%以上)。 – 新補助療法(術前/後: FOLFIRINOX 6ヶ月)。 – 境界例(borderline resectable)で新補助化学療法+CRT。 – 臨床試験(KRAS標的薬)。 | 40-50% | 30-40ヶ月 | 早期発見で治癒可能。PRODIGE-24試験(2023更新): mFOLFIRINOXでOS 54ヶ月。2025年進展: 遺伝子検査(BRCA変異)でPARP阻害薬(オラパリブ)追加。 |
| II期 | – 手術+新補助療法(FOLFIRINOX or ジェムシタビン+カペシタビン)。 – 境界再sectable例: 新補助化学療法(NALIRIFOX: ナブパクリタキセル+リポソマルイリノテカン+5-FU+オキサリプラチン)+SBRT(定位放射線)。 – 分子標的(MSI-high例: ペムブロリズマブ)。 | 15-20% | 20-25ヶ月 | リンパ節転移で予後悪化。ESMO 2023: 新補助でR0率向上(30%→50%)。2025年: ナノ粒子薬剤送達でTME(腫瘍微小環境)改善試験中。 |
| III期 (局所進行) | – 切除不能: 新補助化学療法(FOLFIRINOX)+CRT(ゲフィチニブ併用)。 – 奏功時: 変換手術(IRE: 不可逆電穿孔療法)。 – 緩和(ステント挿入、痛み管理)。 – 臨床試験(免疫療法+化学療法)。 | 5-10% | 12-18ヶ月 | 血管浸潤で手術不可。PREOPANC-1試験(2023): CRTでOS改善(16→23ヶ月)。2025年ASCO: KRAS G12D阻害薬(MRTX1133)でPFS 6ヶ月延長(Phase II)。 |
| IV期 (転移) | – 全身化学療法1次(FOLFIRINOX or ジェムシタビン+ナブパクリタキセル)。 – 2次: ナブパクリタキセル+ジェムシタビン or イリノテカン単独。 – 標的療法(NTRK融合: ロルラチニブ、BRCA: オラパリブ)。 – 免疫療法(MSI-H/dMMR: ペムブロリズマブ、TMB高: 試験中)。 – 緩和ケア優先(栄養管理、疼痛緩和)。 | 1-5% | 6-12ヶ月 | 肝転移多。PRODIGE4/ACCORD11(2024更新): FOLFIRINOXでOS 11.1ヶ月(vs ジェムシタビン6.8ヶ月)。2025年進展: mRNAワクチン(Moderna試験)で免疫応答向上、OS 14ヶ月(Phase I/II)。 |
全体のポイントと今後の展望
- 生存率向上の要因: 化学療法の多剤併用でMSTが10年前の6ヶ月から12-14ヶ月に延長。遺伝子パネル検査(FoundationOne CDx)で26%の症例が標的療法適応(HR 0.42、p<0.001)。 30
- 課題: KRAS変異(90%)への有効薬が限定的(2025年現在、ソトラシブはG12Cのみ1-2%有効)。免疫療法の効果低(TMEの免疫抑制)。高齢者(>75歳)ではPS考慮で治療制限。
- 今後: 2025-2030年の臨床試験(NCT04666740等)で、KRAS汎阻害薬、CAR-T細胞療法、ナノ医薬が期待。早期発見(高リスク群スクリーニング)で生存率20%向上の見込み。治療選択は個別化(分子腫瘍ボード推奨)。
個人の予後は年齢・合併症・治療耐性で変動。主治医と相談を。情報源: 国立がん研究センター、NCCN/ASCO/ESMOガイドライン、PubMedレビュー(2025年更新)。