坂口志文氏(2025年ノーベル生理学・医学賞)の研究詳細坂口志文氏(大阪大学免疫学フロンティア研究センター特任教授、74歳)は、「制御性T細胞(Regulatory T cells, 略してTreg)の発見と免疫寛容のメカニズム解明」により、2025年ノーベル生理学・医学賞を共同受賞しました。共同受賞者は米国のメアリー・ブランコ氏(ハーバード大)とアレクサンダー・ルドルフ氏(スタンフォード大)です。坂口氏の功績は「免疫が自分を攻撃しない仕組み」を世界で初めて分子レベルで証明した点にあり、現在のがん免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)や自己免疫疾患治療の基礎となっています。1. 研究の核心:制御性T細胞(Treg)の発見

  • 1995年の歴史的論文(Science誌)
    坂口氏はマウスの胸腺から、CD4⁺CD25⁺という特殊なT細胞を取り出し、これを除去するとマウスが全身の自己免疫疾患(甲状腺炎、胃炎、糖尿病など)を発症することを証明。
    → これが世界で初めての「制御性T細胞」の機能的証明。
  • 鍵となる分子:Foxp3(フォックス・ピー・スリー)
    2001-2003年に、Tregの「マスター制御遺伝子」としてFoxp3を発見(共同研究)。
    Foxp3に変異があると重症自己免疫疾患(IPEX症候群)が起こることも人間で確認され、Tregの正体が確定。

2. 何を守っているのか?「免疫寛容」の仕組み免疫系は「敵(ウイルス・がん)」を攻撃する一方で、「自分(自己抗原)」を攻撃しないようにしなければなりません。
坂口氏が解明したTregの役割は以下の通りです:

機能内容
自己反応性T細胞の抑制自分を攻撃しようとするT細胞を物理的・化学的に抑え込む
サイトカイン分泌IL-10、TGF-βなどを出し、周囲の免疫を鎮静化
接触依存性抑制Tregが直接相手のT細胞にくっついて機能を止める
組織特異的制御腸、皮膚、肺など各臓器に特化したTregが存在

→ これにより「自己免疫疾患の防止」と「移植臓器の拒絶抑制」が可能に。3. 現在の医療への応用(坂口研究の「実を結んだ」例)

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疾患・治療坂口研究の貢献
がん免疫療法(オプジーボなど)Tregが腫瘍内で免疫を抑えている → 抗CTLA-4抗体や抗PD-1抗体でTreg機能を弱め、がん攻撃を復活させる
自己免疫疾患(関節リウマチ、1型糖尿病)Tregを増やす・活性化する薬の開発が進む(低用量IL-2療法など)
臓器移植Tregを移植前に活性化させて拒絶反応を抑える臨床試験(米国・欧州で進行中)
アレルギー・炎症性腸疾患腸内Tregを増やす治療(酪酸菌など)が実用化

4. 坂口氏の研究スタイルと名言

  • 「免疫は攻撃するだけじゃない。抑えるブレーキ役がいるはずだ」
    → 当時(1990年代)は「免疫=攻撃」の時代で、抑える細胞の存在は異端視されていた。
  • 失敗を恐れず30年以上同じテーマを追い続けた「職人型研究者」。
  • 受賞会見での言葉:「私が発見したのは細胞じゃなくて、自然の美しさです」

5. 2025年ノーベル賞講演での予定テーマ(12月7日)タイトル(仮):「From Discovery of Regulatory T Cells to the Future of Immune Tolerance Therapy」
内容: 

  1. 1995年の発見秘話 
  2. Foxp3の同定と人間疾患との関連 
  3. がん・自己免疫・移植への応用最前線 
  4. 次世代治療(Treg細胞療法、遺伝子編集Treg)の展望

坂口氏の研究は「免疫学の常識を180度変えた」だけでなく、今まさに患者さんに届き始めている、まさに「生きているノーベル賞」と言えるものです。

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