EUの2035年内燃機関車販売禁止方針の転換:ニュース詳細と解説

2025年12月16日、欧州連合(EU)欧州委員会は、2035年から新車販売における内燃機関車(ガソリン・ディーゼル車)の実質禁止の方針を大幅に緩和する提案を発表しました。従来の「CO2排出ゼロ(100%削減)」目標を「2021年比90%削減」に変更し、残り10%の排出を条件付きで容認する形です。これにより、ハイブリッド車(HV、特にプラグインハイブリッド:PHEV)や一部の内燃機関車が2035年以降も販売可能になると見込まれています。 39 37 38

詳細な内容

  • 新目標(2035年以降):
  • 乗用車・バン:尾管CO2排出を2021年比で90%削減。
  • 残り10%の排出は、以下の仕組みで補償可能:
    • 低炭素鋼(グリーン鉄鋼)の使用で最大7%。
    • 合成燃料(e-fuels)やバイオ燃料(非食品由来、例: 廃食用油)で最大3%。
  • これにより、PHEV、レンジエクステンダー(電動走行を内燃機関で延長)、マイルドハイブリッド、一部の純粋内燃機関車が技術中立的に容認される。 39 40
  • 2030年目標の緩和:
  • 乗用車:従来50%削減 → 40%に。
  • バン:同様に緩和。
  • 柔軟性として、2023-2032年の複数年遵守(排出超過/不足の繰越)や、小型安価EVの「スーパークレジット」(EU産EVを1.3台分としてカウント)導入。
  • EV普及支援策:
  • 企業フリート(新車販売の約60%)にゼロ/低排出車義務化(GDPに応じた国別目標)。
  • 小型EV(全長4.2m以下)の新カテゴリ創設と要件凍結で安価化促進。
  • バッテリー生産支援(18億ユーロ投資)など。

この提案は、2023年に採用された厳格な「2035年ゼロ排出」規制(e-fuels例外を除く)の大幅後退です。 40

背景と理由

EUは2050年気候中立目標の一環で、2023年に2035年からの内燃機関車禁止を決定しました。しかし、以下の課題が顕在化:

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  • EV普及の遅れ: 2025年1-9月のEU新車販売でバッテリーEVシェアは16%程度。充電インフラ不足、高価格が障壁。
  • 中国EVの攻勢: 安価・高性能な中国製EVが市場を席巻。EUメーカーは中国市場でシェア低下、欧州内でも輸入増加(関税導入にもかかわらず)。
  • 欧州自動車産業の危機: 雇用1400万人、GDP7%を占める産業が苦境。VWやStellantisなどで工場閉鎖・人員削減発表。ドイツ・イタリアなどの自動車大国が強く反対。
  • 政治的圧力: ドイツ政府の要請、欧州自動車工業会のロビー活動が影響。フランスは反対したが、産業保護優先。 38 40

分析・考察

  • 産業保護の勝利: この転換は「現実主義的」アプローチ。厳格規制が欧州メーカーの競争力を削ぎ、中国勢に市場を明け渡すリスクを回避。VWは「市場現実と整合的」と歓迎。一方、環境団体は「気候目標の後退」「伝統産業の延命」と批判。 40
  • 技術中立性の強調: 完全EV強制から、HVや合成燃料への道を開く。短期的にHV販売を維持しつつ、長期で脱炭素を進めるバランス狙い。ただし、合成燃料の実用化はコスト高で不透明。
  • 気候影響: 2050年目標は維持されるが、2035年の緩和で排出削減ペースが鈍化。運輸部門(EU排出の30%)の脱炭素が遅れ、投資シグナルが曖昧になるリスク。
  • 政治的側面: 欧州委員会の「競争力コンパス」「クリーン産業取引」戦略の一環。トランプ米政権のEV後退政策とも連動し、グローバルな「EVシフト見直し」トレンドを示す。

今後の展開

  • 承認プロセス: 提案は欧州議会・理事会の承認が必要。2026年中の成立が見込まれるが、環境派議員の抵抗やフランス・スウェーデンなどの反対で修正の可能性。
  • 欧州産業への影響: 短期的にHVシフトで息を吹き返すが、中国との技術格差解消が課題。EV投資は継続(小型安価EV支援で)。
  • 世界への波及: 日本メーカー(トヨタなどHV強み)は欧州市場で有利に。米国(トランプ政権のEV後退)や新興国も追随の可能性。中国はEV優位をさらに強化か。
  • 不確実性: EV需要回復や合成燃料進展次第で、再強化の議論も。EUは「市場が決める」柔軟性を強調しており、完全撤回ではなく「調整」として位置づけ。

この転換は、理想的な気候政策と現実の産業競争力の狭間で生まれた妥協です。欧州の自動車産業が中国に追いつけるかが鍵となります。

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