存立危機事態の法的詳細
存立危機事態は、2015年の安全保障関連法(平和安全法制)で導入された概念で、日本が直接武力攻撃を受けていない場合でも、限定的な集団的自衛権の行使を可能とするものです。根拠法は「武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」(通称:事態対処法、平成15年法律第79号、2015年改正)です。
法的定義(事態対処法第2条第4項)
「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」
- 密接な関係にある他国:主に米国を想定(日米安保条約に基づく)が、ケースにより他の国も可能。
- 明白な危険:曖昧な推測ではなく、客観的に明確な脅威が必要。日本の存立全体が危機に陥るレベル(例: シーレーン封鎖によるエネルギー・食料供給断絶など)。
武力行使を可能とする要件(武力行使の新3要件、2014年閣議決定に基づく)
存立危機事態で集団的自衛権を行使するためには、以下の3つをすべて満たす必要があります:
- 存立危機事態に該当(上記の定義)。
- 他に適当な手段がない(外交・経済制裁など非軍事手段が無効)。
- 必要最小限の武力行使(過度な拡大を禁じ、比例原則)。
これらは憲法第9条の下で「限定的」な自衛権行使として位置づけられています。
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認定・手続の流れ(事態対処法第9条など)
- 政府の認定:内閣総理大臣主導で、事態の経緯・事実を基に閣議決定。
- 対処基本方針の策定:閣議で決定。内容には事態認定の理由、対処措置(防衛出動など)が記載。
- 国会承認:
- 原則事前承認:対処基本方針・防衛出動について国会承認を求める。
- 例外的事後承認:特に緊急の場合(国会召集が困難な時)に可能。ただし、召集後速やかに承認を求める。
- 自衛隊の行動:防衛出動下令後、武力行使が可能(自衛隊法第88条)。
- 国際報告:国連安保理に報告(国際連合憲章第51条)。
- 認定は「個別具体的な状況」で総合判断。政府が持ち得る全情報を基に客観的・合理的に行う(政府一貫見解)。
想定例と実際の運用
- 政府例:ホルムズ海峡封鎖による石油供給断絶、公海上の米艦攻撃など。
- 2025年の高市早苗首相発言:衆院予算委員会(11月7日)で、台湾周辺の武力行使を伴う海上封鎖(米軍介入時)を挙げ、「存立危機事態になり得る」と明言。従来の「総合判断」から踏み込んだが、政府は「従来見解を維持」と説明(2025年11月閣議決定答弁書)。
- 実例:2025年12月現在、認定された事例なし。
批判と論点
- 賛成側:現実的な脅威(中国の海洋進出など)に対応し、抑止力強化。
- 批判側:要件の曖昧さで政府の恣意判断可能、憲法違反の懸念(集団的自衛権の拡大)。
- 歯止め:国会承認、必要最小限原則、国際法遵守。
この制度は、日本が直接攻撃されなくても同盟国支援を可能にし、日米同盟の抑止力を強化する一方、判断の透明性と憲法適合性が議論されています。詳細はe-Gov法令検索や防衛白書で確認可能です。追加質問があればお知らせください。
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