中国大使のツイート問題とペルソナ・ノン・グラータの該当性
背景:中国大使のツイート問題とは?
ここでいう「中国大使のツイート問題」は、主に駐日中国大使・呉江浩氏の2023年5月のX(旧Twitter)投稿を指すと思われます。同氏は、福島県の処理水放出をめぐる日本の対応を批判する文脈で、「日本の民衆が火の中に連れ込まれる」といった表現を使い、日本国内で強い反発を呼びました。この発言は脅迫的・挑発的と受け止められ、産経新聞などのメディアで「火の中」発言として報じられました。外務省は抗議を行いましたが、電話や課長レベルにとどまり、次官レベルでの面談抗議は後日行われたものの、内容の詳細は政府答弁で「お答え差し控える」とされました。
一方、最近(2025年11月9日頃)の類似問題として、中国駐大阪総領事・薛剣氏のX投稿が挙げられます。同氏は「汚い首は斬る」といった過激な表現を使い(後に削除)、日本国内で「脅迫的」との批判が相次ぎました。Yahoo!ニュースのコメント欄やブログで「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物、以下PNG)通告を」との声が高まっています。官房長官は「適切な対応を強く求めている」と述べるにとどまり、即時追放などの措置は取られていません。
これらの問題は、中国外交官のSNS発言が日本国内の外交摩擦を助長する事例として、継続的に議論されています。過去の類似事例として、2021年の在米中国大使館のウイグル関連ツイート凍結(Twitter社による)や、2023年のカナダでの中国人外交官PNG通告(ウイグル弾圧批判議員脅迫)があります。
ペルソナ・ノン・グラータ(PNG)とは?
PNGは、ウィーン外交関係条約(1961年)第9条に基づく外交用語で、接受国(ここでは日本)が外国の外交官を「好ましからざる人物」と認定し、国外退去を要求する措置です。主な適用条件は以下の通り:
- 外交官の不適切な行動:内政干渉、脅迫、諜報活動、または接受国の法令違反など。
- 手続き:接受国が送致国(ここでは中国)に通告。外交官は即時出国義務を負い、外交特権は失われますが、刑事責任は問われません。
- 事例:カナダのケースのように、脅迫行為が明確な場合に適用されやすい。政治的・外交的なシグナルとしても使われます。
日本では、過去にロシア外交官(2022年ウクライナ関連)やベラルーシ外交官(2021年)に対しPNGを適用した実績がありますが、中国外交官に対するものは稀です。
該当するかどうか?
法的・外交的に該当する可能性は高いが、日本政府の判断で適用されていない。
- 該当の根拠:
- 呉大使の「火の中」発言は、日本国民への脅威を示唆し、内政干渉的。笹川平和財団の分析では、「厳重抗議の原則(面談招致)が守られていない」として、政府の対応の弱さを指摘し、PNG適用を検討すべきとの意見があります。 国会質問主意書でも、「脅迫発言を繰り返す中国大使の追放」を求め、PNGの適用を議論しています。
- 薛総領事の「汚い首は斬る」投稿も同様で、国内メディアやX上で「即刻追放を」との声が広がっています。 これらは、接受国(日本)の安全・名誉を損なう行為として、ウィーン条約のPNG基準に合致します。
- 国際事例(カナダなど)では、類似の脅迫で即時適用されており、中国側も抗議を繰り返す外交官を「問題人物」と見なす前例があります。
- 該当しない(または適用されない)理由:
- 政治的配慮:日中関係の悪化を避けるため、日本政府は抗議止まり。2023年の呉大使問題では、次官抗議で留まり、2025年の薛総領事問題でも官房長官が「適切対応」と曖昧に述べるのみです。 X上でも、2023年頃の投稿で「日本はいつまで許すのか」との不満が見られますが、政府の腰の引けた対応が批判されています。
- 証拠の曖昧さ:ツイートは削除可能で、直接的な犯罪(脅迫罪)には至らず、外交的特権下の「発言の自由」が盾になる場合があります。Twitter社の凍結事例(2021年)のように、プラットフォーム側対応で済むケースもあります。
- 実務的ハードル:PNGは「最終手段」として、通常はエスカレートした諜報活動で用いられます。現在の日中関係(経済依存)では、適用が「火に油」と見なされる可能性が高いです。
結論と今後の展望
厳密に言えば、脅迫的発言はPNGの該当要件を満たしますが、日本政府の現実的な外交判断で適用されていません。国民・メディアの声が高まれば(例: 国会での追及)、通告の可能性はゼロではありません。2025年11月現在の報道では、薛総領事問題が「PNGの行方」として注目されており、引き続き注視が必要です。 より詳細な政府対応を知るには、外務省の公式発表をチェックすることをおすすめします。