ニュース解説
ムーンショット型研究開発制度(以下、ムーンショット計画)は、2018年12月に内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)で決定された日本政府の大型研究プログラムで、日本発の「破壊的イノベーション」を創出することを目的としています。名称の由来は、NASAのアポロ計画で月(moon)を目指した「ムーンショット」から来ており、従来の技術延長線上では達成不可能な、野心的でハイリスク・ハイリターンの目標を設定し、2050年頃の実現を目指すものです。 1 4 前身は2013年の「ImPACTプログラム」(革新的研究開発推進プログラム)で、これを進化させた形で、少子高齢化、地球温暖化、大規模災害などの社会課題解決をターゲットに、AI、量子技術、バイオ、素材科学などの分野で大胆な研究を推進。2025年現在、10のムーンショット目標が設定されており、総予算は数兆円規模(2021-2025年度で約1兆円投資予定)。 0 6
この制度の特徴は、①「失敗を許容」する文化(短期成果主義からの脱却)、②プログラムディレクター(PD)とプロジェクトマネージャー(PM)の柔軟なマネジメント体制、③国際的な人材公募(国内外の研究者採用)、④関係省庁(文科省、経産省、農水省など)の横断連携です。2025年11月28日のCSTI第80回会議では、高市早苗首相が第7期科学技術・イノベーション基本計画(2026年度開始)に向け、同制度の進捗評価を議論し、基礎研究投資の拡充を指示。これにより、ムーンショット計画は「新技術立国」戦略の柱として位置づけられ、AI・量子分野の国際競争力強化が強調されました。 2 X上では「ムーンショットで日本復活」「大阪万博との連動が面白い」との声が広がり、若手研究者のモチベーション向上に寄与していますが、成果の可視化と財源確保が課題として指摘されています。
ムーンショット計画の詳細
概要と歴史
- 創設背景: 2018年6月のCSTIで提言され、同年12月に基本方針決定。米中などの技術覇権争い、Society 5.0の実現に向け、日本独自のイノベーションを加速させるため。 4
- 運営体制: 内閣府が統括、JST(科学技術振興機構)やNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が実務執行。PD(目標全体統括、複数人)が目標を設定し、PM(プロジェクトリーダー、国内外公募)が研究を指揮。
- 予算と規模: 2021年度から本格スタート、2025年度時点で約2,000億円/年。失敗した場合のリスク分散のため、ポートフォリオ型アプローチを採用。
- 評価方法: 年次レビューと中間評価(2023年実施)で進捗を測定。2025年10月には目標3のPD交代、目標6・9・10のPM追加決定など、柔軟な人事刷新が進む。 10
10のムーンショット目標
以下は、2025年現在の主な目標(2050年達成を目指す)。各目標に複数プロジェクトが紐づき、温室効果ガス削減や高齢者支援など、社会課題解決型。 7 9
| 目標番号 | 目標概要 | 主なプロジェクト例 | 進捗ハイライト(2025年) |
|---|---|---|---|
| 1 | 2050年までに、人が身体の不自由さを超えて自由に行動できる社会を実現(サイバネティック・アバター)。 | 脳-機械インターフェース開発。 | PM公募中、国際共同研究加速。 |
| 2 | 超早期疾患予測・予防を実現し、人類の健康寿命を大幅に延伸。 | AI診断ツール、遺伝子編集技術。 | 臨床試験開始、バイオ分野投資増。 |
| 3 | 気候変動に大胆に立ち向かう(温室効果ガス、窒素化合物、プラスチック循環)。 | CO2直接空気回収、プラスチック分解酵素。 | PD交代(2025/12)、PM公募(10月~1月)。 |
| 4 | 超レジリエントな社会を実現(災害復旧を1週間以内に)。 | 自動修復素材、AI防災システム。 | 実証実験(地震想定)で成果。 |
| 5 | 物質・資源生産をゼロエミッション化(CO2を使わないものづくり)。 | バイオ合成燃料、量子触媒。 | 産業連携強化、NEDO主導。 |
| 6 | 2050年までに、世界の飢餓をゼロに(食料生産革命)。 | 培養肉、AI農業最適化。 | PM追加決定(2025/10)。 |
| 7 | 超小型・低電力であらゆる産業にAIを融合。 | エッジAIチップ、量子センサー。 | 戦略推進会議第17回(2025/10)。 |
| 8 | 2040年までに、地球環境を自在にデザイン。 | 気象制御技術、海洋資源活用。 | 環境省連携で海洋プロジェクト進む。 |
| 9 | 2040年までに、科学技術で心の健康を支える。 | メンタルヘルスAI、脳波解析。 | PM追加(2025/10)。 |
| 10 | 2050年までに、持続可能な社会を次世代へ継承。 | 循環経済モデル、教育AI。 | PM公募(4月~6月)。 |
成果例
- 技術成果: 目標3のプラスチック分解酵素(2023年発見)が商用化へ、目標1の義肢アバターがパラリンピックで実証。
- 人材育成: 2025年現在、PM約50人(国内外)。中高生向け交流会(応募受付中)で次世代育成。
- 国際連携: G7科学技術大臣会合で共有、大阪・関西万博(2025年7月~11月)でバーチャル展示実施。 10
今後の予定
ムーンショット計画は、第7期科学技術・イノベーション基本計画(2026年度開始)と連動し、2025年末までに第7期素案で基礎研究投資の大幅拡充(総額数兆円規模)が反映予定。高市首相の指示通り、国立大学交付金の増額と一気通貫支援(基礎から実装まで)が強化され、2026年3月の閣議決定を目指します。 0 具体的に、①PM公募の継続(目標3: 2026年1月締切)、②2026年夏の「新技術立国戦略」策定で量子・AI分野の予算2倍化、③大阪万博後の国際シンポジウム(2026年春)で成果発表。成功すれば、GDP成長0.5%押し上げとノーベル賞級のブレークスルーが期待されますが、財源(税制改正依存)の議論が焦点。Xでは「ムーンショットで2050年SF社会実現?」とのワクワク感が広がっています。