女性外科医の方が成績が良いという研究結果の概要
近年、女性外科医が担当した患者の術後成績(例: 死亡率、合併症、再入院)が男性外科医の場合より優れているという研究結果が複数報告されています。
これらの研究は主に大規模な観察研究(レトロスペクティブコホート研究)に基づき、北米や欧州のデータを用いています。代表的なものは、2023年にJAMA Surgery誌で発表されたカナダとスウェーデンの2つの研究で、女性外科医の患者の方が有害転帰(adverse outcomes: 死亡、再入院、重症合併症など)が少ない傾向を示しました 13 15 17 。
これを踏まえ、2024年のメタアナリシスでは、全体として女性外科医の患者の術後死亡率が約7%低い(調整オッズ比: aOR 0.93)とまとめられています 14 。ただし、日本での研究では成績に男女差がない場合が多く、文化的・制度的違いが影響している可能性があります 2 4 。
以下では、主な研究の詳細を分析し、批評を加えます。分析では方法論、結果の解釈を、批評では限界やバイアスを焦点にします。
主要研究の詳細分析
1. Wallis et al. (2023, JAMA Surgery): カナダの多施設コホート研究
- 方法論:
- 対象: 2007〜2019年にオンタリオ州で手術を受けた成人患者1,159,687人(女性外科医担当: 151,054人、男性: 1,008,633人)。25種類の一般外科・心臓外科・整形外科などの手術をカバー。
- 調整変数: 患者特性(年齢、併存疾患、所得など)、手術特性(種類、緊急性)、外科医特性(経験年数、専門性、手術件数)、麻酔科医・病院特性(規模、施設タイプ)。マルチレベルロジスティック回帰モデルを使用し、交絡を最小化。
- 評価項目: 術後90日および1年の複合有害転帰(死亡、再入院、重症合併症)。死亡率単独もサブ解析。
- 結果:
- 90日有害転帰: 女性外科医12.5% vs 男性13.9% (aOR 0.93, 95%CI 0.88-0.97)。
- 1年有害転帰: 女性20.7% vs 男性25.0% (aOR 0.94, 95%CI 0.89-0.98)。
- 死亡率: 90日で女性の方が低い (aOR 0.96)。特に女性患者で顕著: 男性外科医担当の女性患者は予想以上に悪い成績(aOR 1.15)。
- サブグループ: 選択手術(elective)で差が大きく、緊急手術(non-elective)では小さい。
- 分析の解釈: この研究の強みは大規模サンプルと詳細な調整で、バイアスを減らしている点。結果は統計的に有意だが、絶対差は1-4%と小さい。女性外科医の優位は、ガイドライン遵守率の高さ(例: 抗菌薬使用の適切さ)やコミュニケーションスキルによる患者遵守の向上から来ている可能性が高い 12 15 。長期追跡(1年)で差が持続するのは、短期的な手術技術だけでなく、術後管理の質を示唆。
2. Blohm et al. (2023, JAMA Surgery): スウェーデンの胆嚢摘出術特化研究
- 方法論:
- 対象: 2006〜2019年にスウェーデンで胆嚢摘出術を受けた150,509人(女性外科医担当: 50,026人、男性: 100,483人)。国家登録データベース使用。
- 調整変数: 患者(年齢、ASA分類、急性/慢性胆嚢炎)、外科医(年齢、経験年数、手術件数)、手術(腹腔鏡 vs 開放、時間)。
- 評価項目: 術後合併症(感染、出血など)、入院日数、再手術率。マルチレベルモデルで調整。
- 結果:
- 合併症率: 女性外科医8.9% vs 男性10.7% (aOR 0.91, 95%CI 0.85-0.97)。
- 入院日数: 女性の方が短い(平均1日短縮)。
- 手術時間: 女性の方が長い(平均87分 vs 82分)。開放術移行率: 女性の方が低い (aOR 0.76)。
- サブグループ: 急性胆嚢炎で差が顕著。
- 分析の解釈: 特定手術に絞った点が強みで、手術スタイルの差を詳細に示す。女性外科医の「ゆっくり慎重」なアプローチ(長い手術時間、低い開放移行)が合併症減少につながる。絶対差は小さいが、経済的影響(入院短縮でコスト減)も示唆 11 17 。
3. Saka et al. (2024, Annals of Surgery): メタアナリシス
- 方法論: 15件の後ろ向きコホート研究(総患者5,448,121人)を統合。PRISMAガイドライン準拠、異質性評価(I²=27%で低)。
- 結果: 術後死亡率 aOR 0.93 (95%CI 0.88-0.97)。合併症 aOR 0.94 (非有意)。再入院 aOR 1.20 (非有意)。
- 分析の解釈: 複数の研究を統合し、死亡率の優位を確かめる。選択手術で差が大きい点が一致。全体として女性外科医の成績が「同等かやや優位」と結論づけ、ジェンダー平等の推進を提言 14 。
日本関連研究の比較
- Okoshi et al. (2022, BMJ): 日本の消化器外科データベース(NCD)で、男女の術後死亡・合併症に差なし。女性外科医はリスク高い患者を担当しつつ同等成績。
- 分析: 北米研究との違いは、女性外科医の割合が低い(6%)ことや執刀機会の格差(難手術で男性優位)。成績同等はトレーニングの質を示すが、機会格差が潜在的な優位を隠している可能性 2 4 5 。
批評: 限界と批判的視点
強み
- 大規模データと調整で信頼性が高い。複数の研究で一貫した傾向(死亡率低下)。
- 臨床的意義: 小差でも、患者数が多い外科では数千人規模の命を救う可能性 18 19 。
- 非技術スキル(コミュニケーション、患者中心ケア)の重要性を強調し、外科教育の改革を促す。
限界とバイアス
- 観察研究の性質: ランダム化なしのため、因果関係不明。女性外科医の「選別効果」(優秀な女性のみが外科に残る?)や未調整交絡(チームワーク、看護師の影響)が残る可能性 12 。例: 女性外科医はガイドラインを厳守しやすいが、これはトレーニングの差か?
- 選択バイアス: 女性外科医が簡単なケースを選ぶ? 調整済みだが、完全除去は難しい。日本では逆(女性がリスク高い患者担当)で同等成績のため、バイアスが過大評価の証拠 0 1 。
- 一般化可能性: 主に欧米データ。アジア(日本)では差なしで、文化(ジェンダーギャップ指数日本120位)や執刀機会格差が影響。胆嚢摘出術特化研究は他の手術に適用しにくい。
- 統計的問題: 差が小さい(aOR 0.93=7%低下)のに大サンプルで有意。臨床的意義は? 異質性低いメタアナリシスでも、出版バイアス(肯定的結果のみ報告?)の疑い。
- 理由の不明瞭さ: なぜ差が出る? 技術スキルでは差なし(シミュレーション研究)、コミュニケーションで女性優位 12 。男性外科医の「過信」や長時間手術の疲労が原因か? 差を「女性優位」と解釈せず、男性の改善点として使うべき。
- 倫理的・社会的批評: 結果がジェンダーステレオタイプを助長?(女性は「慎重」で良い)。実際、女性外科医は昇進しにくく、給与低い 14 。研究は平等推進に寄与すべきだが、逆効果のリスク。
- 矛盾する証拠: 一部研究で差なし(例: 技術スキルレビュー)。長期追跡の欠如や、COVID後の変化未考慮。
結論
これらの研究は、女性外科医の患者成績が同等かやや優位を示唆し、外科分野のジェンダー平等を後押しします。
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ただし、観察データのため因果は不明で、地域差・バイアスを考慮した解釈が必要。将来のRCTやメカニズム解明研究が求められます。外科教育では、男女共通のベストプラクティス(慎重手術、コミュニケーション)を推進すべきです。
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