引渡し条約(犯罪人引渡し条約)の詳細
引渡し条約(正式には犯罪人引渡し条約、英語でExtradition Treaty)とは、国外に逃亡した犯罪嫌疑者や有罪判決を受けた者を、請求国(犯罪が発生した国)に引き渡すことを相互に義務づける国際条約です。本来、各国は主権の原則から他国に犯罪人を引き渡す義務はありませんが、この条約により国際的な刑事司法協力が実現します。
主な仕組みと条件
- 対象犯罪: 通常、両国で重い刑(例: 1年以上の懲役や死刑)が科せられる犯罪(殺人、詐欺、麻薬犯罪など)。条約で具体的な犯罪リストを定める場合(リスト方式)と、両国法で犯罪成立するもの(二重犯罪性原則、Dual Criminality)を基準とする場合があります。
- 引渡しの手続き:
- 外交ルート経由で請求。
- 請求国は逮捕状、証拠資料、犯罪事実を提出。
- 被請求国(逃亡先の国)は裁判所などで審査し、引渡しを決定。
- 拒否事由(共通の例外):
- 政治犯罪: 政治的動機の犯罪(ただしテロは除外される場合が多い)。
- 自国民不引渡し: 多くの国が自国民の引渡しを拒否(日本も原則禁止)。
- 人権侵害の恐れ: 拷問、死刑、不公平な裁判の可能性。
- 時効成立や二重処罰禁止(Ne Bis In Idem)。
- 軍事犯罪など。
- 条約なしの場合: 条約がなくても、相互主義(reciprocity)や国内法で引渡しが可能だが、義務ではなく任意。多くの国でケースバイケース対応。
日本の状況(2025年現在)
日本は犯罪人引渡し条約を締結している国が極めて少なく、米国(1980年発効)と韓国(2002年発効)の2カ国のみです。
スポンサーリンク
- 理由: 日本が死刑制度を維持しているため、死刑廃止国や人権重視国との締結が難しい(死刑適用を懸念して拒否されるケースが多い)。
- 条約なしの場合: 「逃亡犯罪人引渡法」に基づき、相互主義で引渡し可能。ただし、自国民引渡しは原則禁止。
- 例: ドバイ(UAE)とは引渡し条約なし。UAEは多くの国と条約を結んでおり、近年FATF(マネーロンダリング対策)の圧力で積極的に引渡し協力するが、日本とは条約がないため、引渡しは任意で保証されない。
国際的な傾向と引渡し拒否国
- 多くの国が100カ国以上と条約を結ぶ(例: フランス100+、英国120+、米国110+)。
- 引渡しが難しい国(非引渡し国や拒否傾向の強い国):
- 条約なしで協力拒否しやすい: 中国、ロシア、北朝鮮、イラン、ベラルーシ、ベネズエラ、キューバなど(政治的理由や外交関係による)。
- 中東・アジア・アフリカの一部: UAE、タイ、トルコ、モンテネグロなど(条約あっても執行が緩い場合あり)。
- ただし、近年インターポールや国際圧力で協力が増加。永続的な「安全地帯」は減少傾向。
引渡し条約は犯罪抑止に重要ですが、人権保護とのバランスが鍵です。実際の適用は個別事情により異なり、条約なしでも外交交渉や強制送還(deportation)で身柄確保されるケースもあります。
スポンサーリンク