2018年2月4日、沖縄県名護市長選挙が行われました。
注目を集めていたこの選挙では、現職を新人が破るという結果となりました。
そこで、この選挙について、年齢別支持率、勝因と敗因を考察します。
さらに、この選挙結果が及ぼす影響、米軍軍基地移設はどうなるのか、知事選はどうなるのか、についても考察します。
2018年名護市長選挙結果について
【名護市長選】
名護市長選挙の結果は以下の通りとなりました。
渡具知武豊(無所属新人)20,389票 54.6%
稲嶺進 (無所属現職)16,931票 45.4%
これで、自民党が推薦した新人の渡具知武豊氏が初当選を果たしました。
2期を務めた現職の稲嶺進氏は、野党の応援を得ましたが残念ながら3回目の当選はなりませんでした。
名護市長選の意義について
今回の任期満了に伴う2018年名護市長選挙は、沖縄県宜野湾市の普天間飛行場の辺野古移設を着実に進めたい自民党と与党政権が推薦する渡具知武豊氏と、沖縄の反基地勢力の中心人物、翁長雄志氏沖縄知事と彼が率いる勢力、いわゆるオール沖縄との戦いという意味づけがありました。
そしてこの市長選は、今年の秋11月に予定されている、任期満了に伴う沖縄県知事選挙の趨勢を占う前哨戦という意味もあり、二つの陣営は力の入った選挙戦をを展開しました。
現職の稲嶺氏は、社民党・日本共産党・自由党・沖縄社会大衆党・民進党・立憲民主党が推薦していました。
彼は辺野古への移設反対を選挙戦でも表明しておりました。
しかしながら、新人の渡具知武豊氏に得票率9.2%の差をつけられの無念の落選となりました。
一方、渡具知武豊氏は基地移転についてはっきりとした意見を述べることは選挙を通じてしないという戦法をとりました。
沖縄県名護市長選挙の結果の分析
沖縄県名護市長選挙の結果の分析ですが、当選した渡具知氏は、「経済振興等を訴えた事が全般的に支持されたと思う」と述べました。
敗れた稲嶺氏は敗因について、「残念ながら、辺野古移設問題が争点となり得ず、相手陣営にその点をはぐらかされてしまった」と振り返りました。
翁長雄志沖縄県知事は「自民党中央の組織戦が大きな威力を発揮したことによる敗北」と分析しました。
これまでの稲嶺市政は「米軍基地移設阻止」の一辺倒であり、名護市を含む沖縄北部地域の経済発展を停滞させたという批判もあります。
この2期8年に、名護市の有権者が審判を下したとも言えるでしょう。
稲嶺氏の公約として聞こえてきたのは「移設反対」「中国からのパンダ誘致」であり、これらは市民が求める具体的な経済政策とは言えないものでした。
また、この大差での敗北の一因として、前回自主投票だった公明党が渡具知氏を推薦したことも指摘されています。
さらに、2期8年にわたる稲嶺市政の閉塞感を打ち破ってほしい、という若者世代の期待を、新人候補が集めた事も勝因であると分析されています。
これはどういうことでしょうか?
ここで、年代別の両候補の支持率を見てみましょう
沖縄県名護市市長選挙の年齢別投票率
地元テレビ局(OTV)の期日前出口調査結果によると
支持率は以下のとおりでした。
20代 敗れた現職 28% 勝った新人 62%
30代 敗れた現職 39% 勝った新人 61%
40代 敗れた現職 41% 勝った新人 59%
50代 敗れた現職 38% 勝った新人 62%
60代 敗れた現職 65% 勝った新人 35%
70代 敗れた現職 68% 勝った新人 32%
80代 敗れた現職 67% 勝った新人 33%
90代〜敗れた現職 86% 勝った新人 14%
見て分かる通り、10〜50代は圧倒的に新人の支持率が高く、60〜90代は圧倒的に現職の支持率が高い、という世代間の支持率、投票傾向の差が浮き彫りになりました。
これは、最近の各種の国政、地方選挙と同様の傾向とも言えます。すなわち、50代以下は与党系への支持が強い、保守的な投票傾向が目立ち、一方、60代以上は野党系への支持が強い、ということが最近の衆議院選挙前後の調査でもわかっています。
そして、今回の名護市長選挙は76.9%という高い投票率で、若い世代が積極的に投票行動に出たことが勝利の原動力となりました。
これら、若い世代、そして勤労世代は、経済にも国防にも責任を持ってもらえる選択肢として、現在の野党系の議員を敬遠する傾向が明らかとなりました。
彼らの自民党への支持が高い理由は、そこにあります。
また、沖縄特有の事情、すなわち、アメリカ軍政を経験した世代と、日本復帰後の沖縄しか知らない世代と意識の違いも考慮しないといけません。
さらに、沖縄特有の事情、事実上2つの新聞社が独占しており、その2誌とも明らかに反自民党であり、その2つの新聞を読んでいる世代、テレビをよく見ている世代と、新聞は読まず、ネットなどでの多角的な情報を入手して、世界の中の日本、そして沖縄の政治的軍事的経済的状況や重要性を的確に把握している世代の差があると言えるでしょう。
名護市長選挙結果が及ぼす今後の影響について
米軍基地移設への影響
名護市は、沖縄のアメリカ軍普天間基地の移設先である辺野古がある市です。この市の市長選挙は、政府・与党の支援する新人候補が、移設反対を掲げる現職を破った選挙であり、そこに市民の民意があるという判断をすることは妥当である、といえます。
すなわち、翁長知事陣営が頻回に使用している概念『オール沖縄』はすでに現実的ではない、ということが明らかになりました。
今回の結果が、沖縄の民意だとはまだ言えない、という意見もありますが、そもそも、民意が1つにまとまる、といった問題ではなく、徹底反対する勢力は消えないことは容易に想定されます。
よって今後、辺野古への基地移設の進展に関しては、粛々と進められていくことが予想されます。
沖縄県知事選への影響
沖縄県知事選は、現職の翁長雄志知事の任期が今年12月9日に満了となるため、11月中の選挙が想定されています。
前回の2014年の選挙では、名護市辺野古の新基地建設に反対する「オール沖縄」が翁長県政を誕生させましたが、今回の選挙では、現職翁長知事、と県政の野党となった自民党県連と政府与党の手厚いサポートを受ける候補者との対決となります。
翁長知事は、今回の選挙後も「辺野古反対の民意はまだいきている」と、あらためて基地移設反対の姿勢を明らかにしております。
一方、自民党は今回の名護市長選は秋の知事選に向け、大きな影響を及ぼすと期待しております。
移設反対の大義としてきた「地元の民意」を今回の選挙で崩され、オール沖縄がすでに崩壊した形での沖縄知事選は、再選を目指す翁長氏にとっては厳しい戦いになりそうです。
まとめ
沖縄県名護市長選挙は、現職が新人の自民党が推薦する議員に敗れました。
この背景と、年代別の支持率の違い、沖縄特有の事情をまとめました。
そしてこの選挙結果が及ぼす影響を、米軍基地移転と知事選挙についてまとめました。
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